『すご~く後悔していること』~1978年の日記より~

以前、素人の『欽ちゃん劇団』のMさんのことを記事にしました。その続きです。日記に手を加えてみました。長いので退屈になったら、遠慮なくクリックしてください(笑)
自分の記憶の整理のため、自己満足で書いているだけですから……。

Mさんと出会ったのは、新宿にある某ホテルの一室でした。

私は夏休みを利用して、そのホテルでアルバイトをしていたのです。

ひょんなことから、テレビに出ている素人劇団の女の子が泊まっているよ、という情報があり、

それでは訪ねてみよう、と2人の同僚と昼休みに訪ねることにしたのです。

何の躊躇もなく、いきなり部屋をノックする私たち。

「どちらさまですか?」
 
という東北訛りの聞き覚えのある返事がかえってきました。K沼ちゃんに違いない。

すぐに、警戒心のないK沼ちゃんが顔を出しました。

「あの、握手してください」

何を言うか決めていなかったので、とりあえずそう言ってみました。すると、

「握手ですか? Mさんもいるから呼んでくるね」

と東北訛りでそう言うと、K沼ちゃんは部屋に戻り、しばらくしてMさんとともに再び姿を現しました。

正直言って、この時点で私はまだ彼女たちのファンではありません。

「こんにちは。今、寝てたものですから、こんな格好ですみません」

ホテル備え付けの浴衣姿でMさんが言いました。そして、寒そうに腕を組んだのです。

その容姿はテレビで見るより遥かに愛らしい、と私は思いました。

「アルバイトですか?」とMさんが私たちに話しかけてきました。

「そうなんです。今、昼休みなんです」

「みんな、学生さんでしょう?」

Sがそれに答えるように、

「ぼくは灘高生です。今、夏休みでこっちに来ています」

え?灘高? 何で嘘を言ってるんだろう。高校生じゃないだろ。さらにSは続けて

「こっちが高校生のY君、それと、あちらが一橋大生の○さん」

と、私の方を指さしました。おいおい、勝手なことを言うな、私は一橋大生ではないのに。

本当のことを言ってくれればよかった、と思った時はすでに遅く、成り行きにまかせるしかない
雰囲気になっていたのです。

「一橋っていったら国立でしょ。すごいですね。将来は、そうね……防衛庁とかそういうところ
に就職するんでしょ。学部はどこですか?」

というMさんの問いに、私は

「ショウ学部です」と答えました。

これはほんとうでしたから。でも、別の大学のね。

「小学部? やっぱりね。なんか、こう、学校の先生って感じがしましたよ」

「いや、小学部じゃなくて、商業の商です」

「あっ、なんだ私はまた小学校の小かと思った。考えたらそんな学部ありませんよね。」

そう言うとMさんとK沼ちゃんは大袈裟に笑い、決めのポーズをとったのでした。

習慣とは恐ろしいものです。

「へえ~、それじゃ将来はどんな方向に進むんですか?」

Mさんの問いに、私は曖昧な返事しかできませんでした。まだ決めていなかったからです。

私は話題を変えようと思い、彼女たちが出演している番組の話をはじめました。

「この前見ました。よくやりますね。あれは台本があるんでしょう?」

「台本はないのよ。みんなアドリブでやっているの」

私は気になる出演料についても聞いてみました。

「出演料は、素人のお嬢さんにわざわざ来てもらって、出てもらってるってことで普通の新人よ
り多いみたい。あなたたちのバイト代の倍くらいかな」

私のバイト料は時給400円で4時間だから1600円。その倍で3200円?

私たちがよほどバイト料をもらっていると思ったのでしょうか。

「1回出演して、1万円くらいなの」

え、好きなことをやって、ホテルにも泊めてもらって1万円もらっているんですか。

「でも、みんな食べちゃうから残らないの。出演料もらえると思ってなかったもん。交通費だけ
かと。だから、初めて渡されたときは、え、もらっていいんですかって驚いたのよ」

昼休みも終わりに近づいています。パートのおばさんたちも戻ってきました。そして、

MさんとK沼ちゃんを見るなり、にこ~っと笑い、まあ~、テレビよりかわいいわよ、と言いなが
ら私たちの方を見たのです。

「もう1時よ、仕事、仕事」

「また、来ますね」

そういい残して私たちが立ち去ろうとした時でした。Mさんが

「一橋の人と握手させてください。一橋だなんてすごいですねっ」

と言って手を差し出してきました。

私は2人の同僚に悪いなと躊躇しながらも、緊張で汗ばんだ手を彼女に差し出しました。

そして、その後私たち5人は何回かこのホテルで会うことになったのでした。(続く)


でも、単にそれだけの他愛も無い話です。

今でも思うのは、この時私は何故一橋大生ではないと言えなかったのか、ということです。

自分で言ったわけではないにせよ、身分を偽ったことを、とても悔やんでいるんですね。

嘘は嫌いなんです。一つのけじめとして。


今、K沼ちゃんは地元の旅館の女将になっているようです。

でも、ほのかな思いを寄せていたMさんのその後は全くわかりません。


ここまでお読みいただいた方、ありがとうございます。お疲れ様でございました。

追伸:私は教師ではありませんのであしからず(笑)
















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